コンパースとの別れは、予想通り、雪解けの季節に訪れた。
　それは、中学卒業を間近に控えた頃でもあった。

「オーナー様へのお仕えは、これで引退なのでございますぅ〜♪
　これからは、結婚して幸せな家庭を築くという夢を実現するため、努力して参ろうと思っているのでございますぅ〜♪
　 ──そうなのでございますぅ〜♪　引退は、ゴールであると同時にスタートなのでございますぅ〜♪　ギャハハ！」
「うん。応援しているよ」
「ありがとうございますなのですぅ〜♪」
「──うん。ところで君は、このあと、どこに行くことになるんだい？」
「──。 きっと、どこにも行かないのでございますよぉ〜♪」
「──え？」
「いつも近くにいるのでございますぅ〜♪」
「え？　近くって──、 ──どこ？」
　──ここにいるのでございますぅ〜♪
「──。 コノヤロ、コノヤロ、コノヤロ！　映画みたいなことを言いやがって！」
「ギャハハハ！」「アハハハッ！」
　僕らは、一緒に笑った。

「──うん。これまで楽しかったよ。いろいろ、どうもありがとう」
「こちらこそ、おかげ様でしたのでございますぅ〜♪
　ありがとうございましたですぅ〜♪
　──それでは、そろそろお別れのお時間なのでございますぅ〜♪
　お元気でいらっしゃるのでございますぅ〜♪　さようならなのでございますぅ〜♪」
「さようなら。君もお元気で」

　あいさつが済んでから間もなく、コンパースの表面の『→』とコンパスの針の絵が、ジワジワと消えた。