どれくらいの時間が経ったのだろう？
　岸へ戻ることが難しくなっていることに気づいた。
　もがけど、もがけど岸に近づけないばかりか、まともに浮いていることさえもできなくなっていて──
　それでも──
　懸命に、もがいた。
「ごぼっ」
　・・・　──う、うそだろ？
「うごっ」
　・・・　──こ、こんなことがあっていいのか？
「おごっ」
　・・・　やってみたいことが、いっぱいあったのに──
「がぼっ」
　・・・　あれとか──　これとか──

　少しずつ体がついてこなくなっていた。
「あがっ」
　・・・　父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃん、オレ伝えなきゃ──
「ごぼぼっ」
　・・・　あれとか──　それとか──
「おごごっ」
　・・・　父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃん、オレ──　ごめんよ──

　体が、とうとう、ほとんどついてこなくなった。

「──」
　・・・　ああ──　ああ──　 ・・・

　「おまえ〜！　 何やっとるぅ〜！？」　そのとき、かすかに声が聞こえた。
　まぼろし？
　ギリギリのところで懸命に周りを見ると──　信じられないことに、船に乗っているおじいさんが、そこにいた。
　──え！？
　「何やっとる！？　おまえ！」　この耳で、はっきり聴けた。
　おじいさんは、必死の形相で、腕をがっちりつかむと、渾身の力で、僕を船上に引き上げてくれた。

　岸辺へ向かう船上で、僕らは、お互いに無言だった。
　それでも、おじいさんは、自分の家まで僕を連れてゆき、シャワーと着替えを提供してくれた。