大震災が直撃したのは、第２子の出産が近づいていた頃だった。
　岬のおじいさんは、命からがら高台に逃げて無事だったけれど、家が地震と津波で全壊してしまい、仮設住宅で暮らし始めることになった。
　両親は、その仮設住宅へ、度々、様子を見にうかがい始めた。
　僕らも、被災していた。
　停電、断水、ガス停止の生活を何日も強いられた。
“パンが食べたい”とリクエストした妊娠中の瑠音のために、道路のすべての信号が消えている中を、貴重なガソリンを消費して自動車でスーパーにたどり着き、店外の大行列の最後尾に並んだ。
　１時間以上並んだけれど、パンは売り切れで買えなかった。
　しかたなく、代わりに、せんべいやスイーツを買って帰った。