再び、彼女と僕は、しばらくの間、水平線の方を眺めていた。

「ねえ、そうすると、今この地球上の生態系の中で生きている個体社会の集合としての種のすべては、個体社会レベルだけでなく、少なくとも生態系レベルにおいて『Love-Loveの関係』の構築に成功し続けているのね？」　今度は、彼女が口を開いた。
「うーん。一部は正しいけれど、一部は正しくなさそう」と僕。

「え？　どういうこと？」
「例えば、人類という種と、人類にとって有用な一部のほかの種──植物たちや動物たち、細菌たちが、『Love-Loveの関係』の構築に成功してきたおかげで、これまでお互いに存続しているという意味では確かに正しいよ。
　でも一方で、人類という種が、一部のほかの種との間では『Love-Loveの関係』の構築に失敗している真っ最中である可能性があるという意味では正しくないんだよ。
　なぜなら、これまで、決して成功だけが続いたわけではなく、失敗もあったから」
「──え？」
「例えば、オオナマケモノとの関係。例えば、ダイカイギュウとの関係。例えば、オオウミガラスとの関係。例えば、ブルーバックやリョコウバトとの関係…
　そして、例えば、ニホン・カワウソとの関係──。
　このニホン・カワウソとの関係も、人類が『Love-Loveの関係』の構築に失敗してしまった例にほかならなかったのさ」
「──」
「かつて人類とニホン・カワウソが同時に生存していた時代が確かにあった。でも、その時代の関係は決して『Love-Loveの関係』ではなかったのさ。なぜなら、結果的に一方だけが存続して一方だけが絶滅してしまったのだから。
　一方の種だけが存続して、一方の種だけが絶滅してしまったことは、その時代の関係が、実際は『Love-Loveの関係』ではなかったことを意味しているのさ」
「──」
「だから、たとえ今現在、同時に生存しているからといって、互いに『Love-Loveの関係』の構築に成功しているとは限らないんだよ」
「たとえたった今、この地球上の生態系の中で同時に生きていても、『Love-Loveの関係』の関係の構築に成功しているとは限らない──」
「そうさ。
　だから、たった今たとえ同時に生きていても、ある種とある種の間に構築している関係が『Love-Hateの関係』や『Hate-Hateの関係』であることも十分ありうるのさ」
「──」
「例えば、たった今も、さまざまな種が人類という種によって絶滅の危機にさらされている可能性があるという意味で、『Love-Hateの関係』の関係が構築されている可能性があるんだよ」
「──」
「かつてニホン・カワウソは、きっと、ある時点まで長い間『Love-Loveの関係』の関係の構築に成功し続けていた。でも、人類のような困った種が新たに出現したせいで、『Love-Hateの関係』を強いられ続けてしまった。その結果、絶滅の脅威にさらされ続け、本当に絶滅してしまったんだよ。
　もし、人類が、十分に早いタイミングで『Love-Loveの関係』の関係の構築に舵を切ってあげていたならば、ニホン・カワウソは今も存続できていたはずなのさ」
「──。 あ、そっか──」　彼女の声は、しずんでいた。
「──」
「ハァ──。 ──もしかしたら、ニホン・カワウソがせっかく当時の人類をずっと愛し続けてくれていたのに、当時の人類はニホン・カワウソをずっと愛してあげなかったことになるのかな。
　だとしたら、悲しいね。とっても──」　彼女の目が少し潤んでいるのがわかった。
「──ああ、確かに悲しいね」　もらい泣きしそうになった。