「ほう」　そう言いながら、おじいさんは、僕が持っていたシャベルに目をやった。
　僕は、それを、さっと自分のお尻の後ろまで移動させた。
「ああ、これは、ヒマだったから──、ちょっくら穴でも掘ってやろうかなと、──思って？」　　もう、めちゃくちゃ──
　「ほう、そうか」
　「──」　　・・・


　海のはるか遠くをしばらく眺めていたおじいさんは、ふと、しゃべり出した。
「おまえさん、『ルモウネのジュモン』を知っておるじゃろうか？」
「え？　──し、知らないよ」　　まずい。このおじいさん、
　明らかにあやしすぎ。この場から、さっさと逃げなくては。
「──ん？　どうした？」
「ん？　いや、別に」
「では、さっそく行くぞ？」
「──」　　──え！？　もう来るの？
「ルモウネ、ルモウネ…」　おじいさんは、何やら唱え始めたんだ。
　　明らかにまずすぎる。 なんだか足が動かない。
　　ああ、緊張しすぎている。高鳴る鼓動。吹き出る汗。
　　今にも息が止まりそうな感じ。全身の筋肉がこわばる感じ。
　　…
「ルモウネ、ルモウネ… ああ、効いている」
「──」　　──もう効いている！？
「ああ、もうダメだ」
　 僕は、おじいさんの様子をじっと見た。
「──」　　──え！？　何がもうダメなの？
　おじいさんは、ゆっくり姿勢を変え始め、　 ──ん？
　完全に横になった。　　──んん！？
　 なんだなんだ？　何がどうして、どうなったんだ？
「じゃ、お休み」
「へ？」
　それから、おじいさんは、まぶたを閉じた。見ると、ランプベリーもすでに目を閉じて眠っていた。
　　ルモウネ、ルモウネ… ル、モウネル、モウネル、
　　──モウネル！？　もしかして、『もう寝る』ってこと？