「大丈夫？　ハァ、ハァ…」　走りながら尋ねる彼女。
「え？　大丈夫、大丈夫。16分の1だし── っていうか、そっちこそ大丈夫？」
「ええ、大丈夫よ。 ハァ、ハァ…　──16分の1？　ハァ、ハァ、ハァ…」　彼女が僕に、はずむ息の中でそう聞き返した。
「そうなんだよ。自転車だと、同じ距離を歩くのに比べて16分の1の労力で済むんだって。
　たしか、中学の技術家庭で習ったよ」
「──ハァ、ハァ…」
「あっ、今は、2台分だから、8分の1？　──あっ、でも、今は押してもらっているから、 ──12分の1くらい？　アレ？」
「──ハァ、ハァ…」
「っていうか、君の方は、今、3倍くらいになっちゃっている？　 アレ？」
「──ンフフッ」　彼女は、笑ったらしかった。


　どうにかこうにか無事に自転車屋さんにたどり着くと、すぐにパンクを直してもらうことができた。
　そうして、ふたりとも、何とか1校時の英語の試験の開始時刻に間に合ったんだ。