それが夢だとしたら、その夢は、全く醒める気配のない夢だった。しかも、目覚めすっきり感といい、見るもの聴くもの触れるものといい、どれもリアルそのものだった。どうやら、すべてが現実らしかった。
　思い切って、僕は再び口にしてみた。「オン」
　フワリン！

「キャハハ♪　ハーイ、フレーム・オーナーさん♪」
　しばらくの間ポカンとしながら、そのリアルなフワリフワリを眺めた。そして、我に返った僕は、口を開いた。
「いやー、まいったぜ。本当に空を飛べるとは──
　これって “物理の法則がくつがえる”ってことだよね？」
「“鳥にとって空を飛ぶのが普通なように、わたしたちにとって空を泳ぐこと、空中遊泳が普通だよ”ってことなだけよ。人間だって、ロケットで地球から宇宙に飛び出たりしているけど、物理の法則には、ちゃんと従っているわよね？　それと同じよ」
「──」　・・・　「──あ、でも、前から不思議に思っていたんだけれど、君らは何を食べているんだい？　そう、エネルギーは、どうやって得ているの？」
「それはね、わずかな“光などを含む電磁波”によって空気中のわずかな水分から分解されて取り出された水素を活用しながらエネルギーを得ているの」
「──超ハイテクじゃん」
「キャハハ♪　だから、あなたたちと同じように食べたり飲んだりしなくても大丈夫なのよ♪」
「──。 ──え？　じゃあ、どうしてオナラが出るんだい？」
「それはね。 ──イヤーン、もう、そんな恥ずかしいこと聞かないでよぉ」
「──」　　・・・　──でも、どんなしくみなんだろう？
「──」　それも、ちゃんと物理の法則に従っているから大丈夫よ♪
「──」　　って、何がどうなって、どうなるんだろう？
「──。 ──わたしたちは、空気を取り込んで生きているの。空気の中には水分、酸素、二酸化炭素、窒素… などの単純な分子はもちろん、ホコリとか、生体高分子とか、化合物とかを含めて結構複雑な物体も含まれているのよ。それらを活用するためには、私たちは“空気を食べる”必要があって──　だから──　だからでちゃうの。 それは全くクリーンで無害なんだけどね」
「──。 すごいじゃん。君らは空気を食べて浄化してくれていたんだね。まるで空飛ぶ空気清浄器だよ」
「キャハハ♪　だから安心してね。未来のガ、ク、シャ、さん♡♪」
「イェーイ♪　学者の卵と呼んでくれーい♪」
「──ギェーイ」
「──。 ギェーイ？　ギェーイって何？　ギェーイって──」
　　・・・　って、もしかして──、 ──え？
　　そうでーす♪　わたしたちはツワリもするのでーす♪
　キャハハ♪
「ええ！？ 」
「キャハ♡　もう妊娠しているのよ。おなかの中に──　新しい、いのちがいるの」
「──」　・・・　「──あれ、大丈夫？　つわりって、やっぱりつらい？」
「あらら？　優しいのね♪　──ええ、大丈夫よ。そりゃあ、つらい部分はあるけれど──　新しい、いのちを授かった喜びと、赤ちゃんがどうか元気に育ってねという願いのおかげで、そのつらさをピョーンと乗り越えられるって感じ？
　キャハハハ♡♪」
　そこにいるのは、すでに──　母親になるべく一歩一歩前進している、たくましいプレママだった。