「それに──」　彼女が話を続けた。「第3フレームでは、どちらかと言えば、あなたがこっちなら、私はこっちね」
「──」　・・・　「──え？」

「だって──　どちらかと言えば──」　彼女の顔は、もものようにほんのり赤くなっていた。
「待った！　まずいよ。そんな──。女の子が赤くなりながら──」
「──え！？　何のこと？
　──。 ──ええっ！？　違うわ。私、そんなつもりで言ったんじゃないわ。ゼッタイ──」　ももの何十倍も彼女の顔が赤くなったように見えた。
「──え？　どんなつもりだったの？」
「それは──　これまで、どちらかと言ったら、あなたの方から先に能動的に私に働きかけてくれていたじゃない？　逆に私が受け身で後からって感じで──。そのことが言いたかったのよ。
　だから──　私が、いきなり、──そんなことを言うわけないじゃない」　さくらんぼのように赤くなっている彼女の顔──。
「──そ、そうだよね。ごめん」　　しまった。僕としたことが──。　・・・
「──。 その、やっぱり──　男の子だと、そんなふうに思っちゃうのかもね」
「いやいや、そんなことない、そんなことない。 ──って言うか、“そんなふう”ってどんなふう？」
「──」　いちごのように赤くなっている彼女の顔──。
　急いで視線を外した僕──。
　しばらくの間、僕らは互いに視線をそらし合った。気まずい時間が流れた──。

「──赤いぜ。 ──いちごみたいに」と僕。
「──。そう言うあなたは、 ──スイカみたいよ」と彼女。
「──」　・・・　「──話題、変えようか？」
「ええ、そうしましょう」
　そのときだ。
　一匹の犬が、見ず知らずの人に散歩してもらいながら、こちらに近づいていることに気づいた。
──ラッキー♪
　　うん、ランプベリーのことを話題にしよう。
　　ナイスタイミング♪
「そう言えばさあ、僕も──」とランプベリーのことを話し始めようとした、まさに、その瞬間──　僕の目が大きく見開かれた。
　なんと、その犬は、ちょうどふたりの目の前で、片足を挙げ、木の幹に向けて用をたし始めたのだ。そうして、その犬は、その人とともに何事もなかったかのように、その場を去った。
　再び、気まずい時間が流れ始めた──。
　　・・・　 あんにゃろう〜！！
　　──って、あいつは、ちっとも悪くない。うん。いつも通り
　の自然なことだ。・・・　もうランプベリーのことは、話題に
　できないぞ。どうしたらいいんだ？　どうする？　彼女が
　困っているぞ。何とかせねば──。何とか──。
　　──ああ、頭の中が回らない。どうしよう？
　　・・・

「ブッー！」　彼女が突然吹き出した。 「クックックッ…。　 アハハハハ！　アハハハハ！　…」
「アッハッハッ！　アーッハッハッハッ！　アハーハハハ！　…」
　ふたりは一緒に笑い合った。

　のちに聞いた話によれば──
　そのときのシチュエーションのみならず、僕の顔も相当おかしかったのだそうだ。 ──どんな顔だ！？