ペーパー・コンパスは、そのまま上昇を続け、天井にぶつかった。かと思うと、壁にぶつかり、テーブルにぶつかり、本棚にぶつかり、電灯にぶつかり、床にぶつかり… その過程の繰り返しが、どんどん加速した。
　しまいには部屋中のありとあらゆるものに、猛スピードで、ぶつかり続けるペーパー・コンパスに至った。
　そこらじゅうに散らばる、本や写真、ＣＤ、さくらんぼ…。
　それは、小さな竜巻のようで──
「いったい、何なんだぁ！？」　大声で叫ぶ僕。
「アアーッ、 アアーッアッア！　アアーッ、アアーッアッア！…」　ペーパー・コンパスは何か声を発している様子だった。
　あまりに素早く動き続けるペーパー・コンパスを手に取ることなど、到底できそうもなかった。
「オフ！　オフ！」　それも全く効果がなかった。

　もう、どうしようもないとギブアップしかけた。
　そのときだ。別の声が聞こえ始めたのは。
「よーし、よしよし、よしよし…」