とある休日──。
「みんな、今から、父さん、実験を始めるよ」　瑠音と、ちびっこたちを前に、僕は言った。「ここに、１つの卵があります。これを約70センチメートルの高さから、静かに、そうっとフライパンの上に置けば、何が起こるでしょう？」
「何も起きるわけないじゃん」 「何も起きないよ」
「本当に？」
「本当さ」 「本当だよ」
「じゃあ、実際にやって確かめてみよう」
　卵を約70センチメートルの高さから、静かに、そうっとフライパンの上に置いた。
「ほら、何も起きないじゃん」 「やっぱりだ！」
「お、正解だ。その通りだったね。うん。それでは、次の実験に移るよ。もし、この卵を、フライパンの上、約70センチメートルの高さで手を離せば、何が起こるでしょう？」
「ええ！　卵が割れちゃうよ」
「割れてどうなる？」
「卵の殻が割れて、中身が広がってしまう」 「ベチャーとなる」
「本当に？」
「本当に」 「本当だよ」
「じゃあ、実際にやって確かめてみよう」
「あなた──」　瑠音の一声。
「大丈夫。僕が、責任を持つから。　──では、いくぞ。 やるよ。 えいや！」　パッ、グシャ。　卵の一部がつぶれた。
「あれ、ゆで卵だったの？」
「残念。不正解」
「えー！　ずるいよ」 「ずるーい！」
「ずるくない、ずるくない。生卵だなんて、一言も言ってないよ。つまり、こんなふうに実際に実験してみなきゃわからないことがあるってことさ。それに、ゆで卵であるおかげで、いいことがある」
「どんないいことがあるの？」
「ゆで卵であるおかげで、僕が気持ちよく食べられるってこと──」
　──パラ、パラ、パラ…　 モグモグモグ…。
「もし、生卵で、やってみたければ、やってみてもいいよ」
「あなた──」
「あ、もちろん、責任は、きちんと自分で取るんだよ。
　無駄な食品ロスは、父さん、ゆるさないよ。命をいただいているのだからね。
　──これで、父さんの実験は、終わりだよ。
　あっと、ここで、みんなに問題だ。
　卵から手を離したら、卵は割れるのに、卵をそうっと置いたときに、何も起きなかったのは、なぜでしょうか？」
「なんで？」 「なぜ？」
「さあ、ぜひ、自分の頭で、よく考えてみよう。
　自分の体で感じながら──」