とある休日──。
「父さん、今から、新しい実験を披露するよ」　瑠音と、ちびっこたちを前にして、僕は言った。「ここに、１つのお皿があります。このプラスチックじゃないお皿、陶器のお皿を1.2メートルほどの高さから、静かに、そうっと床の上に置けば、何が起こるでしょう？」
「何も起きるわけないじゃん」 「何も起きないよ」
「本当に？」
「本当さ」 「本当だよ」
「じゃあ、実際にやって確かめてみよう」　 その皿を1.2メートルほどの高さから、静かに、そうっと床の上に置いた。
「ほら、何も起きないじゃん」 「やっぱりだ！」
「お、正解だ。その通りだったね。
　うん。それでは、次の実験──。床の上、1.2メートルほどの高さで、このお皿から手を離せば、何が起こるでしょう？」
「ええ！　お皿が割れちゃうよ」 「大きな音が出る！」
「そのあと、どうなる？」
「皿が割れて、バラバラにくだけて、飛び散ってしまう」
「本当に？」
「本当に」 「本当だよ」
「じゃあ、実際にやって確かめてみようか？」
「あなた──」　瑠音の一声。
「わかっている。父さん、ここで、手を離したりなんかしない。
　お皿が使えなくなったら、もったいないからね。
　でも、実は、５日ほど前に、母さん、誤って手を滑らせて、お皿を床に落としてしまったことがあるんだ」
「え？」と瑠音。
「──母さん、あのとき、何が起きたか説明してくれないかい？」
「あのとき、確かに、ガチャン！って大きな音をたてながら、お皿が大小さまざまな大きさに割れて、飛び散ったわ。２メートル以上遠くに飛び散ったカケラもあったわ。
　誰かが踏んづけてケガしないように掃除するのが大変だったから、よく覚えているわ」
「つまり、母さんは、すでに、先取りして実験してくれていたんだ」
「すごーい」 「すごいね」
　みんなで拍手しよう。パチパチパチ…。　──照れている瑠音。
「──これで、父さんと母さんの共同実験は、終わりだよ。
　あっと、ここで、みんなに問題だ。
　お皿から手を離したら割れたのに、お皿をそうっと置いたときに何も起きなかったのは、なぜでしょうか？」
「なんで？」 「なぜ？」
「──ぜひ、自分の頭で、よく考えてみてほしい。
　想像力をふくらませながら──」