絶望のどん底にまで沈み、ズタズタになり、仕事も手に着かなくなっていた僕は、冬至に近い日に急遽、無期限の休暇をとり、帰郷する旨を書き記した置き手紙と、念のため、もしものために書いていたあの手紙の微修正版を遺して発ち、雪が積もっている中を歩き続け、なぜか冬の岬の、あの昼寝ポイントにまでたどり着いた。
　早々と日が暮れ始め、薄暗くなり始めている──。
　真冬の海原が重々しく広がっているのが見える──。
“ゆっくり、ゆったり深呼吸”のおかげで、かろうじて持ちこたえていたけれど──　エネルギーを消耗しきったように感じた僕は、力尽き、そのまま横になった。
　雪の冷たさを感じながら、重苦しい雲を見上げた。
　そのとき、猛烈な眠気に襲われた。
　このまま眠ってしまおうか──。
　僕は、ためらいながらも、とりあえず、そのまま目を閉じた。

　──不思議な夢を見た。
　冬の岬の昼寝ポイントで横になって目を閉じている自分──。
　雪の冷たさを全身に感じている自分──。
　かと思うと、ほっぺに、ペロペロのぬくもりを感じた。
「──」　ランプベリー──。 目が開かない。
「確かに休養は大事じゃが、今の、この状況では、休まない方がよいのではないじゃろうか？」
「──」　おじいちゃん──。 目が開かない。
「さんぽ君、起きて。起きるんだよ──」
「──」　心笑くん──。
「君は、決して一人じゃないよ。もちろん、僕らも応援しているけれど、そもそも、僕らの成果も、僕らが知らなかっただけのことで、どこかの先輩方が、とっくの昔に見つけていたことだったのかもしれないんだよ。地球文明の中の誰かって意味においても、地球外文明の中の誰かって意味においても──」
「──」　 ・・・　──コンパースのこと？　 僕は目を開けた。
「それに──　そもそも、究極の再生可能エネルギーは、電荷エネルギーや磁極エネルギーだけじゃないんだよ」
「──」　 ？？？　 目を丸くした僕。
「心のエネルギーも再生するんだよ。 何度も何度も──」
「心のエネルギーも再生する──」
「そう。心のエネルギーは、超究極の再生可能エネルギーなんだよ。そのおかげで、僕は何度も何度も絶望を乗り越えることができていたんだ。そのときの希望の源の１つが、君であり、君らだった──」
「心笑君──」
「大丈夫。心は、超究極の再生可能エネルギーだから。
　それは、僕が保証するよ。 ──というか、これは、まさに、君自身が、すでに示してくれていたことでもあったんだよ。
　喜びが何十倍にも何百倍にも増幅できることは、心のエネルギーがくめどもくめども尽きない再生可能心エネルギーであることを示唆してくれていたのだから──」
「再生可能心エネルギー──」
「そう。君の自己実現は、この意味においても、僕の自己実現の支えであったんだよ。むかしからずっと──
　だから、大丈夫。余裕さ。
　──だから、今は、もう眠らないんだよ」　心笑君の笑み──。
「その通りじゃ」　なぜかサンタクロースの恰好をしているおじいさんの笑み──。トナカイのかぶり物をしている、しっぽを振りながら寄り添うランプベリーのぬくもり──。
　──パッと目を覚ました。
　しばらく呆然──。　気づいたら、自分も、ほほ笑んでいた。
　──そうだ。
　心笑君のためにも──
　おじいちゃんのためにも──
　ランプベリーのためにも──
　瑠音のためにも──
　子どもたちのためにも──
　未来の子どもたちのためにも──
　未来のみんなのためにも──
　今のみんなのためにも──
　…
　細胞社会レベルのライフのためにも──
　人間社会レベルのライフのためにも──
　全人類レベルのライフのためにも──
　天体生態系社会レベルのライフのためにも──
　…
　そうやって、心のエネルギーを再生させ、増幅させ続けるんだ。
　エネルギーを奪うクヨクヨではなく、エネルギーを増やすワクワクの方こそを膨らませながら──。

　ワクワクワク♪　ワクワクワク♪
　　ワクワクワクワク ワクワクワク♪

「あそれ♪
　ワクワクワク♪　ワクワクワク♪
　　ワクワクワクワク ワクワクワク♪

　あそれ♪
　ワクワクワク♪　ワクワクワク♪
　　ワクワクワクワク ワクワクワク♪」

　──イキイキイキ♪　イキイキイキ♪
　　イキイキイキイキ イキイキイキ♪

　──アイアイアイ♪　アイアイアイ♪
　　アイアイアイアイ アイアイアイ♪

　──ランランラン♪　ランランラン♪
　　ランランランラン ランプベリー♪

　──ルンルンルン♪　ルンルンルン♪
　　ルンルンルンルン ルンルンルネ♪

　──ニコニコニコ♪　ニコニコニコ♪
　　ニコニコニコニコ ニコニココエ♪

　──サンサンサン♪　サンサンサン♪
　 　サンサンサンサン サンサンクス♪

　──ルンルンルネ♪　ルンルンルネ♪
　　ルンルンルネサン ルネサンクス♪

　──ニコニココエ♪　ニコニココエ♪
　　ニココエサンクス ココエサンクス♪

　──ルネサンクス♪　ルネサンクス♪
　　ルネサンクスクス ルネサンクス♪

　──サンクスクス♪　サンクスクス♪
　　サンサンクスクス サンクスクス♪

　…　──おじいちゃん、いつか笑い飛ばせるときが来るよね。
　──いや、今すぐ、笑い飛ばしちゃおうか。
「フフフッ。フフフッ。 アッハッハッ。アッハッハッ。
　アッハッハッハッハッ。アッハッハッハッハッ！ …」
　心の元気を取り戻せれば、この理不尽な世の中をもたらしている病んでいる方々のために何ができるかに想いを馳せられる。
　Against Life 病が治るには、どうしたらいいのだろう？
　まずは、ヘトヘト、ビクビク、クヨクヨ、モンモン、ピリピリ…から解放させてあげて、イキイキ、ウキウキ、ワクワク、ホワホワ、ニコニコ…してもらうことだ。そうやって、まず心が元気になってもらうことだ。
　心が元気になってもらえれば、その上で For All Life 路線を健やかに実現してもらうことができる。
　…
　そこには、イキイキ、ウキウキ、ワクワク、ホワホワ、ニコニコ、心笑、喜び、快感、楽しみ…を含む『For』の再生や増幅がある。
　イキイキ、ウキウキ、ワクワク、ホワホワ、ニコニコ、心笑、喜び、快感、楽しみ…を含む心のエネルギーは、いくらでも増幅できるし、何度だって再生できる。
　夢の中の心笑君が言っていたように、それらは、たとえ、どんなに絶望しても、何度も何度も再生できる超究極の再生可能エネルギー、再生可能心エネルギーでもあるから。
　人間は、本来、イキイキ、ウキウキ、ワクワク、ホワホワ、ニコニコ、心笑、喜び、快感、楽しみ…にあふれている健やかな存在であるはずだ。だから、それは改心などではなく、まさに心の再生だろう。
　一人一人が心の再生を実現するにはどうしたらいいのだろう？
　そのためには、一人一人が好き、楽しみ、心笑…を取り戻し、それらをエンジョイすることが有効だろう。
　当然、好き、楽しみ、心笑…には、個人差があるだろう。
　基本的に、心底好きなことをするなり、心底楽しめることをするなり、心底笑えることをするなり…自由にやればいい。
　もちろん、周囲と調和させながら──。
　周囲のみんなも喜ばせながら、周囲のみんなも楽しませながら。
　そうすれば、一人一人が Against Life 路線を脱しながら、For All Life 路線をとり続けることができるし、ヘトヘト、ビクビク、クヨクヨ、モンモン、ピリピリ、イライラ、ムカムカ…の苦しみライフを脱しながら、イキイキ、ウキウキ、ワクワク、ホワホワ、ニコニコ、アイアイ、ルンルン、ピンピン…のお楽しみライフを育て続けられるし、心の再生──心の回復、復旧、復興、全快…を実現させられる。
　この心の再生──心の回復、復旧、復興、全快…の実現が広がれば、人間レベルのライフの健康寿命が延びるだけでなく、人間社会レベルのライフの健康寿命も延びる。
　心の再生が広がり続ければ、いずれ、健やかな全人類レベルのライフも誕生するし、健やかな天体生態系社会レベルのライフの一員にもなれる。
　そうなれば、科学技術が十分に健やかに育ち、地球環境の持続、生態系の繁栄に貢献できるし、生態系からも重宝され続けるだろう。
　だから、心の再生──心の回復、復旧、復興、全快…の実現が広まることが最優先なのだろう。
　心の再生が広まるには『For』の連鎖が広まることも大事だろう。
　心の再生が広まるには、For All Life の知恵が広まること、For All Life の『コトバ』が広まることも大事だろう。
　心の再生が広まるには、『アタマ』と『カラダ』の両方の方々が愛し合うこと、For All Life 路線を高め合うことも大事だろう。人間レベルのライフにおいても、人間社会レベルのライフにおいても、将来の健やかな全人類レベルのライフにおいても…。
　心の再生が広まるには、“『イマ』と『ミライ』”の両方の方々が愛し合うこと、For All Life 路線を高め合うことも大事だろう。
　心の再生が広まるには、一人一人が、フルーツフルで健やかな自己実現 For All Life を果たし続けることも大事だろう。
　…
　心の再生が広まれば、たとえ一人一人のエネルギーは小さくても、トータルで大きなエネルギーになるだろう。
　心の再生が広まれば、たとえ一人一人が微力であっても、トータルで大きな力が生まれるだろう。
　この大きな力こそが、全人類レベルのライフにおける自然治癒力の根幹だろう。
　この自然治癒力が大きくなれば、ますます心の再生が広まり──
心の再生が広まれば、ますます自然治癒力が大きくなるだろう。
　それが十分に育てば、全人類レベルのライフは健康を獲得でき、健やかな全人類レベルのライフが誕生するし、いつしか健やかな天体生態系社会レベルのライフの一員化を果たせるんだ。
　全人類レベルのライフは、いつかここへ、たどり着けるんだ。
　…
　ああ、たまらんぜ。
　ああ、お楽しみ袋がふくらむぜ。
　…
　そのためにも、まずは、自分自身が好きや楽しみや心笑…を取り戻し、エンジョイし続けよう。周囲のみんなも喜ばせ、楽しませながら──。For All Life 路線を貫きながら──。
　そうして、まず自分自身が、ヘトヘト、ビクビク、クヨクヨ、モンモン、ピリピリ、イライラ、ムカムカ…を脱し続け、ウキウキ、イキイキ、ワクワク、ホワホワ、ニコニコ、アイアイ、ルンルン、ピンピン…へと舵をとり続けよう。
　何度も、何度も、何度も…。
　そうしながら、日々、心の再生──心の回復、復旧、復興、全快…を繰り返し実現し続けよう。
　何度も、何度も…。どんなに絶望しても。何度絶望しても。…
　心は、超究極の再生可能エネルギーだから。
　──そうだよね？　心笑君。
　──そうだよね？　おじいちゃん。
　──そうだよね？　ランプベリー。
　──そうだよね？　瑠音。
　──そうだよね？　みんな。
　…
　気づけ！　気づけ！　気づけ！
　目覚めろ！　目覚めろ！　目覚めろ！
　広まれ！　広まれ！　広まれ！
　いつまでも、いつまでも、いつまでも！
　どこまでも、どこまでも、どこまでも！
　プリーズ、プリーズ、プリーズ！
　…
　雪の勢いが増していた。──とにかく帰ろう。早く連絡しなきゃ。 よろよろと立ち上がった。 すると、「あなた！」　大きな声が響いた。見ると、懐中電灯を持っている瑠音がそこに立っていた。
「よかった──」　瑠音の声は、ふるえていた。涙をぽろぽろと、こぼし続けている瑠音。僕は、駆け寄ると、思わず抱きしめた。
「ごめん。死んじゃったと思ったかい？」
「だって──　だって──　こんなに寒い中、眠ったりしたら──」
「考えごとをしていたんだよ。確かに最初は眠ってしまって夢を見たけれど、途中から、ずっと考えごとをしていたんだ。おかげで」
「バカ、バカ、バカ──」　瑠音は、僕の胴体を、両手でポンポンたたいた──　あとに抱きしめた。
「──愛してる。愛してる。愛してる」　僕は、より強く抱きしめた。