“ひるねちゃんが年上の彼氏と付き合っているんだつて──”
　そんな衝撃的なウワサが流れ出したのは、梅雨明け待ち遠しい季節の頃だった。
　 ──ショックだった。信じられなかった。
　可憐で、はにかみ屋で、優しい、あの彼女が──　・・・
　きっと何かの間違いだ──。
　そう思った。
　でも──
　それ以上にショックなのは、クラスメートのほとんどが、彼女に話しかけなくなったり、彼女を避けるようになったり、彼女に対し露骨に冷たい態度を取るようになったりしたことで──
　一番のショックは、彼女の顔からいつもの笑みが消えたこと。
　 ──心がズキズキ痛んだ。
　本当でない可能性の方が高いのではないか？
　あれほど優しい彼女が、こんなにひどい目にあうなんて、よほど、おかしなことが起きているのではないか？
　──そう考えた。

　僕が、彼女を守る。
　──そう決めた。

　ウワサの真偽が確定していない以上──
　まずは彼女の身の潔白を僕は信じる。
　万一、たとえウワサが本当だったとしても
　誰が何と言っても
　僕は彼女を絶対裏切らない。
　──そう心に誓った。

　それが僕の責任であり、義務だ。
　──そう感じた。

「年上の彼氏？」　通学路で会ったニュートン君は目を丸くして聞き返した。僕がうなずくと、彼は、はっきり、こう言った。「それは、きっと何かの間違いだと思うよ。彼女は、そんな子じゃないよ。よく確かめた方がいいよ」
「君もそう思うだろ？　僕も、そう思うんだ。それに僕は彼女に助けられたから、ウワサが本当であろうとなかろうと関係なく、お節介かもしれないけれど、僕が彼女を守ってあげなければならないとも思うんだ」
「うん。きっと、それがいいよ」　力強く支持してくれた心笑君。
　そのような親友との会話が、どれほど励みになったことか──。