高校２年の初夏。
　おじいさんに会うために岬へと出発した。
　　カメラを持って──

　花々やモンシロチョウたちを含む下り勾配全体を──
　カシャ！
　──これがズーム・アウト。
　近づいて、おじいさんの笑顔を──
　カシャ！
　──これがズーム・イン。
「アッハッハッ！　なんだか照れるのぉ。カメラは──」

　それから僕は、あの恥ずかしい悲劇のことも含めて、おじいさんにあれこれ話して聞かせた。
「アハーッ、アハーッ、アッハッハッハッハッ！！　──傑作じゃ！　アッハッハッハッ！！」　その“悲劇”を聞いたおじいさんは、涙をこぼしながら腹を抱えて笑った。
　──こんなに笑うおじいさんを初めて見た。
「ある意味、ラッキーじゃったの？」
「ったく──　ふざけないでくれよ。
　 笑いごとじゃなくて致命傷だよ。イメージ最悪だし──」
「ん？　すまん、すまん。
　じゃが、若者よ──　そういうもんじゃ。人生はカッコいいことばかりじゃない。そういう、どうしようもなくカッコ悪いこともありつつ人生は成り立っておる。
　──心配いらん。
　笑い飛ばせるときが、いつかきっと来るはずじゃ」
「──」　・・・
「わしなんか、もう、カッコ悪くて恥ずかしいことだらけじゃ。
　それでも、これまで生きた。
　それでも、今、生きておる。
　それでも、これからも生きるじゃろう。
　人生は、いとおしいもんじゃて」
「──」

　しばらく遠くを眺めていたおじいさんが、ポツリと口を開いた。
「彼女のこと、今も好きじゃろうか？」
　・・・　「──ああ」
「うむ、そうか。
　では、さっそく第５フレームを紹介しよう。きっと役立つはずじゃ」
「そうは言っても──　どうあがいても、かなわぬ恋だよ」
「まあ、その恋がかなうかどうかは、“ふたりの相性”の問題があるから、わしもようわからん。
　じゃがのぉ──　これだけは、はっきり言える。
　大きな大きな“人生の財産”をもたらしてくれるじゃろう。きっと」
「大きな大きな“人生の財産”──」
「そうじゃとも」
　・・・　「よくわからないけど──」　とりあえず、おじいさんに地図を手渡した。
「──うむ。では、行くぞ？」
「ああ、来い来い」