「よーし、よしよしよし…」　ペーパー・コンパスは次第にスピードを緩め、ベッド上に舞い降りた。いつしか最初の声も、おさまっている。
「──ごめんなさい！」　コンパリーチェの声だった。
「え？　何が、どうなって、どうなったんだい？」　僕が尋ねた。
「本当にごめんなさい。部屋、散らかっちゃったね。
　──あっ！　 さくらんぼも…」
「うん──　だから、いったい、何がどうして、どうなったの？」
「えっと、その、 ──わたしたちの赤ちゃんなの」
「──へ？」
「第７フレームの担当は、わたしたちの子なのよ」
「ええ！？」
「幼名コンパルンクル」
「──」
「そうね──　人間の赤ちゃんで言うと、生後数週間ぐらい？」
「ちょ、ちょっと待った。なぜ、よりによって──」
「間に合ったから」
「──」
「それに、わたしたち、信頼しているの。あなたたちなら、大丈夫だろうって」
「待った、待った！　生まれたばかりの自分たちの赤ちゃんだぜ！？　どこにそんな無責任な親が──　これじゃ育児放棄だよ！」
「──５つ子だったの」
「が！？」
「上の子たちがコンパランクル、コンパリンクル、下の子たちがコンパレンクル、コンパロンクル」
「──」　・・・
「もちろん、上と下の子たちは私たちが、めんどうみるわ」
「だから、ちょっと待った、ちょっと待った。そういう問題じゃ──」
「──よろしくね？」
「だから待ってくれ！　子育てなんて、全く、やったことないよ！」
「私たちにとっても、初めての経験よ。 ──みんな誰だって、最初は、そうでしょ？」
「そりゃ、そうだけど──」
「時間がないの。今、話せるのは、特例中の特例なのよ」
「──」　頭の中がパニックになり、何も言葉が浮かばない──。
「人間の数倍のスピードで発達するわ。いずれ、言葉も話せるようになるはずよ。 ──あ、ハーイ！　あ、もう失礼しなきゃ！」
「え！？　あ、待った！　いろいろ聞きたいことが」
「ああ、時間切れ！　よろし」
「よろし？」
　コンパリーチェとの応答が、まるっきり途絶えた。