僕たちは、その水平線の見える地点に並んで腰を下ろした。
「無事で何よりじゃった。うん、よかった。うん、よかった」　しみじみと言うおじいさん。
「──。 ──おじいちゃん？」　意を決して問いかける僕。
「──ん？」
「──。 手紙──」
「──ああ。 ──すまんかったのぉ」
「いったい、何があったの？」
「──骨じゃ」

「骨？」
「ああ、魚の骨じゃ」
「──」
「あのやろう──　どでかくて、硬くて、するどくて──　そいつが、のどに引っ掛かっちまって──　痛くて、痛くて──
血も出るし、鼻水も出るし、涙も出るし、息もまともにできんし──　苦しいのなんのって、そりゃあ、もう、絶対死ぬと確信したんじゃ」
「──」
「それで──　それでも──　生きている間に、おまえさんに、どうしても伝えなきゃならんことがあると思って──　痛みこらえながら──　涙流しながら、その手紙を書いたんじゃ」
「──」
「その書いた手紙をビンに入れて、石と一緒にいつもの昼寝の場所に置くと──　その場で力尽きて、いよいよ最期だと覚悟しながら、そのまま横になって目を閉じた」
「──」

「そしたら──　そしたらよ、 ──夢を見たんじゃ」
「夢？」
「不思議な夢じゃった──」

　その夢は、次のような内容だったらしい。

　いつもの場所で横になっていると、“起きて、起きて”という感じで、ほっぺに刺激が加わった。
　それがランプベリーのペロペロであることに気づいたおじいさん。“こらすぐったい。やめろ。ランプベリー。こら”と心の中で話しかけるけれど、声が出ない。目も開かない。起き上がれない。　…
　すると、遠くから声が聞こえてきた。 「おーい！　元気に生き〜ているかぁ〜い？♪」　それは、僕の声だった。
“おーう！　元気に生き〜とるともぉ〜！♪”と心の中で返事をするけれど、声が出ない。目が開かない。起き上がれない。…
「オイオーイ♪　奮発してメロンを持ってきたぞ〜♪」と僕の声。
“メロン…　メロン…”　「──メローン！！！」　おじいさんは、そのとき、やっと夢の中で声を出せた──　と同時に夢の中で目を開けた。

「──ようやっと実際に目を覚ましたのは、メロンを受け取ろうとする、まさにその瞬間じゃった」
「──」　──オレたちより、メロン！？
「そしたら──　その夢をきっかけにして、次から次へと楽しかった思い出たちが心に浮かんできよった。
　それに、将来の楽しみも、次から次へと浮かんできよった」
「──」
「そしたら──　なんだか妙に元気が湧いてきてよ、もうちっと頑張って見ようかなって気になっちまって──。
　 ──あとは気力よ」

「気力？」
「そうじゃとも。もうろうとしながら、歩いて歩いて──　気力で船を操作して、となり町の港まで行って──　それから、フラフラしながらも気力で歩いて歩いて──　そうしてやっと、港の近くにある病院にたどり着いたんじゃ」
「──」
「もし、お前さんたちがおらんかったら──　もし、お前さんたちが毎年ここに訪ねてくれておらんかったら──　わしゃあ、とっくに、完全にあきらめて──　本当に死んでおった」
「──」
「お前さんたちは──、 ──わしの命の恩人じゃ」
「──っていうか、おじいちゃんこそ、僕の命の恩人じゃん」
「お互いに無事で何よりじゃった！　うむ。うむ」　おじいさんは、泣いているのか笑っているのか、よくわからない表情をしていた。
「おじいちゃん──」　おじいさんの肩に頭をくっつけるようにしてかがみ、目を閉じた。