「ライフは、この上ない宝──」　僕は、そうつぶやいた。
「そうじゃとも」
「──あ、そうだ！　わかった！」　そう言いながら僕は顔を上げた。
「ん？　何がわかったのじゃ？」
「地図は、やっぱり宝の地図だったんだよ！　──おじいちゃんの居場所を教えてくれていたから。アハッ！」
「──ありがとうよ。こんな、おいぼれジジイを宝じゃと言ってくれて。
　じゃがのぉ、おまえさんは、わしなんかと比較にならないほどの、はるかに、はるかに、すてきな、この上ない宝をすでに持っているんじゃよ」
「──」
「むろん、ほかならぬ、おまえさん自身のライフじゃ」
「──」
「わしにとっても、この上ない宝じゃ。そして、おまえさんのご両親にとっても、この上ない宝じゃ」

「──」　なぜか、このとき、生まれて間もない僕をほっとしながら抱いている母と、それを写真に撮っている父の姿 が心に浮かんだ。
「おまえさんが、かつて誕生して、今こうして生きておるのは、決してあたりまえのことじゃない。それは、さまざまな幸運や、親を含む、さまざまな方々の多くの努力や力添えのおかげのことなんじゃよ」
「──」
「何と言っても、小さな子どもだった、お父さんとお母さんが成長して、思春期を乗り越え──　そうして、何らかの形で、めぐり会わなければ、おまえさんは存在していなかったのじゃからのぉ」
「──」　・・・
「それに、最初は、誰もがたった１つの細胞じゃった。そのたった１つから始まって、ここまで育ったのじゃから、それはもう大した幸運で、とってもありがたくて“あたりまえ”から程遠いことじゃ」
「──」
「それに、生まれてから何年もの間、誰もがみな、自分だけでは、ほとんど何にもできんかった。
　例えば、生まれて間もない赤ちゃんの頃だったら、おっぱいやミルクを飲んだりも、おむつを換えたりも、お風呂に入ったりも…どれもこれも誰かの助けを借りて初めて達成できたことじゃ」
「──」
「そう言えば──　おまえさんのお父さんやお母さんが、赤ちゃんの頃のおまえさんと小さなお兄さんを連れて、わしのところにやってきてくれたときのことが、昨日のことのように目に浮かぶのぉ」
「──」　──え！？　手紙の中の“再会”って、そういう意味？
「──お父さんやお母さんは、子どものいない、わしら夫婦のことを思いやって遊びにきてくれたんじゃろうな。赤ちゃんだったおまえさんやお兄さんを、わしと妻に抱っこさせてくれたよ。
　──とっても、うれしかった。とっても」
　全然、知らなかった。 「──父や母や兄とお知り合いなのでしょうか？」　思わずかしこまって、そう尋ねた。
「お兄さんとは、赤ちゃんだったおまえさんと一緒のときに会ったっきりじゃった。小さかったから、おそらく、わしのことを覚えておらんじゃろう。
　じゃが、お父さんとお母さんとは、よく知り合っておる。お前さんらが生まれるずっと前からのぉ」
「──」　・・・
「まあ──　おまえさんらは、わしらの孫みたいなもんじゃな。いや、ひ孫かな？」　おじいさんは、しばし、しみじみ心笑んだ。
「──」