僕は思わず家の外に出ると、自転車にまたがってペダルをこいだ。こいで、こいで──　ひたすら、こいだ。

　途中で自転車を降りると、歩いて、歩いて──　ひたすら、歩いた。

　なぜか砂浜までたどり着いた僕は、腰を下ろし、そのまま、ボンヤリと海を眺めた。

　ザブーン、ザザザシュー…


　自分の能力のこと、将来のこと、彼女とのことについて、悲観的な考えが何度も心に渦巻いた。
　まさに「絶望のどん底」であり、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。もう何もかもがダメになりそうだった。
　これほどのつらさを感じたことは、それまでの人生で一度もなかった。
　それは明らかに人生の危機だった。

　でも──
　それに対抗するべく──
　おじいさんの知恵──自分自身のためのライフセーバーになってあげる知恵を必死に実践し続けた。
　スー　ハー　スー　ハー　スー　ハー　…
　もうがむしゃらに、心地よい腹式呼吸を取り戻してあげることに全力を注ぎ続けた。

　どれくらいの時間が経ったのだろう？
　徐々に気持ちが落ち着き──
　ようやく前向きに物事を考えられるようになった。


　　・・・

　　つまり──
　　人生を変えた方がいいってこと？

　　新しいライフのあり方を目指すべきだってこと？

　 “やりたい”だけじゃダメで、なおかつ、“やれる”ことを
　やれってこと？

　　彼女のことは潔くあきらめよう。
　　これはどうしようもないことだ。

　　大学進学も、あきらめる？
　　──それとも、あきらめない？

　　夢も、あきらめる？
　　──それとも、あきらめない？

　　少なくとも──
　　僕は学問をやりたいよ。
　　多くの人たちに──　フルーツのようなものを味わって
　もらいたいよ。
　　・・・

　　僕からこの夢を取ったら、僕は僕でなくなりそうだよ。
　　どうしたらいい？　──どうしたい？
　　・・・

　　おじいちゃん──　それでも、ライフは、この上ない宝なん
　だよな？

「──おーい！」　そのとき、遠くから彼女の声が聞こえた。