その後、台所に行き、グラスに麦茶に注いでから部屋に戻った。そうして気を取り直した僕は、意を決して、ペーパー・コンパスの女の子のライフに、 ──飛び込んだ。

「き、君の名前は、──な、何でっしゃろ？」と僕。
「キャハハ♪　私の名前は、コンパリーチェ♪
　──あなたの名前は？」
「ぼ、僕は、な、なつみさき、さんぽ──　と申します」
「ナナツミサキさん──」
「──」　　・・・
「ナナツミサキさんは、今、何をやっているの？」
「今、 ──高校一年生をやっています」
「そう。ナナツミサキさんの将来は、どんな感じ？」
「──ぼ、僕は、将来、パラダイム・マスターになります感じです」　　なんか、さっきから言葉がヘン──
「キャハ♪　そうなのね。 ──どんなパラダイム・マスターになるの？」とコンパリーチェ。
「え？　どんなって──」　　・・・　　麦茶を一口ゴクリと飲み込んだ。
「じゃあ、パラダイム・マスターになって、 ──それで、どうするの？」
「それで？　それで──　えっと、だから…　そのへんは、まだ、よくわからないけど、 ──おじいちゃんの想いを引き継ぐんだよ。 ──そう！　パラダイム・マスターの中のパラダイム・マスターの想い──」
「そう」
「──」　・・・　「 ──それだけ？」　僕は思わずそう尋ねてしまった。
「え？　“ソレダケ？”──って？」
「ほかに、もっとない？　“えらいねぇ”とか“立派だねぇ”とか“すばらしいねぇ”とか…」
「プッ」
「──」　・・・　「 ──別に笑わなくたっていいじゃん」
「キャハハ♪　 ──オナラが出たのでーす♪」
「──」　　・・・
　しばし、沈黙が流れた。
　　・・・　 ──お、女の子だろ？
　　──あら？　オナラする女の子もいるのよ♪
　　・・・　そりゃそうかもしれないけれど──
　僕は、麦茶を一口、ゆっくりと飲み込んだ。
「あれあれあれ？　もしかして、女の子はしないと思っていたとか？」
「──。 ──。 ──っていうか、ふつう“オナラ出ちゃったの”とかって言うだろ？　──“恥じらい”ってやつ？」
「キャハハハ♪」
「──」　　・・・　 ──な、なんなんだ。コイツ──
　　パラダイム・フォー・ライフから生まれた、コンパス・
　フォー・ライフでーす♪
　　──コ、コンパスが、オナラする？
　　なんてったって──　別名“コンパス・オブ・ライフ”
　ですからね♪
　　・・・　 「──だから？」　麦茶を一口。
「だから、コンパス・オブ・ライフだから──
　オナラもするし、恋もするし、結婚もするし、○○○○もするし、○○○もするし…　 子どもも産むんだよー♪」

「ブーッ！！！」　口の中の麦茶が、全部、吹き出た。