写真のアルバムを久しぶりにめくっていたのは、梅雨明け待ち遠しい、ある雨の日だった。
　留守番中の家の外では雨音が絶え間なく響き渡っていた。

　　──これらの写真は、僕の過去だ。

　それから、心の中に思い浮かべた。

　　自転車に乗れるようになって、大喜びした思い出──
　　祖母の家に遊びに行き、すべてが楽しかった思い出──
　　家族みんなで海水浴にでかけ、ワクワクドキドキした
　思い出──
　　とても早起きしてノコギリクワガタをつかまえて、大喜びした
　思い出──
　　ランプベリーが、子犬を3匹産み、とても不思議な気持ちに
　なった思い出──
　　…



　　──これらの心の中の思い出も、僕の過去だ。


　次に、別のアルバムのページをめくり始めた。
　輝く頭とともに堂々としている“母方の曾祖父”の風格のある白黒写真を見つけた。70歳代くらいだろうか──。

　　・・・　 ──将来、僕もこうなれるかな。


　若くして戦死してしまった“母方の祖父”の当時の白黒写真を見つけた。
　　母の今の年齢よりもずっと若い。・・・　まだまだ、いろいろ
　やってみたかったことがあっただろうに──。　・・・
　　母方の祖父は、やっぱり、どことなく母に似ているよ。
　　母の名は、母の誕生を戦地で知った祖父が、戦地から送った
　手紙の中で希望していた名前だったと、祖母が話していたっけ。
　　・・・

　また、別のアルバムをめくり始めた。
　すると、今度は、父と母が結婚して間もない頃の写真を見つけた。
　　この頃、兄も僕も、まだ存在していなかったんだ。
　　なんだか不思議な感じ──　・・・
　　──うん。今から10年前に、僕は存在していたけれど──
　15年前には、僕は明らかに存在していなかった。