ところが、心笑君は、非難され、けなされ…ネガティブに批判されまくったあげく、失職しただけでなく──　突然、病気で亡くなってしまったんだ。その知らせを受けたのは、初秋だった。

　なぜ？　なんで？
　──心笑君は、うすうす気づいていたんじゃないか？
　こうなる可能性があったことを、はじめから──。
　だからこそ、連盟にしようと提案していたのではないか？
　連名で公表していたら、僕が手伝っていたら、心笑君の不安を軽減できて、心笑君は、無理しなくてすんで、病気にならずに、まだ生きていたんじゃないか？
　それに、そもそも、心笑君が、従来の物理学の常識から外れて、大学院を中退して帰郷するという大変な道を歩むに至ったのは、僕の３ステップス自然知愛のせいだった。
　──全部、僕のせいだ。
　全部、僕のせいで、まだまだ若い心笑君が死んでしまった。
　せっかく、まだまだ、これからだったのに──　…
　僕は、何てことをしてしまったのだろう。
　申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
　心笑君が不憫で不憫で、いたたまれない気持ちになった。
　僕は、自分の一部を喪失したような気持ちになった。
　──彼の優しさがフラッシュバックした。
「この科学雑誌、よかったら読んでみないかい？」
「女子更衣室で、君が倒れたとき、真っ先に先生に知らせてくれたのは、瑠音さんだったんだよ。水着姿のまま校舎内を走って」
「この間、『北の国から’89帰郷』で熱烈なファンになったって聞いていたから、準備していたんだ」
「彼女は、そんな子じゃないよ。よく確かめた方がいいよ」
「君たちが、うまくいっていると、周囲も幸せな気持ちになれる。そんな、すてきなカップルだよ」
「ありがとう。気持ちは十分に受けとったよ。心の中で大事にさせていただくよ」
「君の成功が心底うれしくて、すぐに購入して、当時から読んでいたんだよ」
「結構ぼろぼろになってしまったけれど、ぞんざいにあつかったり、保存状態が悪かったりしたせいじゃないんだぜ。何度も何度も読み返したからなんだ」
　…
　涙があふれて、あふれて、あふれて…
　僕と瑠音は、その晩、ずっと泣き続けた。