そうやって──
　僕らは、それなりに“子育て”をこなしたんだ。

　“プチ・マップ作り”の方は、ちっとも進まなかったけれど──
それからの日々は、僕らにとって、いろんな意味で幸せだった。
　コンパルンクルは徐々に空中遊泳の能力を発達させ、部屋の物にぶつからないよう上手に移動できるようになった。
　コンパルンクルのプルプルが、めったに見られなくなる一方で、逆に“キャキャキャ”という笑い声が聞かれる頻度が増えた。
　僕らは、こうした発達を素直に喜び、将来のさらなる発達を楽しみにし始めた。

　こうして“子育て”に余裕ができ、大学生活にも慣れて自由時間が増えると、僕は、いよいよ、好きなテーマについて、思う存分、学び始めたんだ。
　医学部は確かに必修科目が多くて大変だったけれど、特に教養部時代は、受験生時代に比べれば、ずっと多くの自由時間があった。
　その貴重な自由時間に、試験のためでもなく、何かに制限されるわけでもなく──　 心ゆくまま、心ゆくまで、のびのびと自由に学んだ。

　彼女に言わせてみれば、当時の僕は“水を得た魚”状態だったらしい。自由時間の多くを、図書館や書店で新鮮な情報に出会うことに充てた。ライフサイエンスのみならず、『発達心理学』や『人間性心理学』を含む心理学にも、僕は惹かれた。

　そうして、駆け足で月日が流れ──
　大学最初の夏休みの足音が聞こえてきそうな季節、コンパルンクルが初めて言葉を発したんだ。
　その言葉とは、“ママ-パパ”でも“お姉ちゃん-お兄ちゃん”でも“ひるねちゃん-さんぽくん”でもなく──
　“ピピピーピピー♪”だった。
　──言葉？