桜が満開となったのは、それから１週間ほど経ってからだった。
　その満開のタイミングに、ちょうど、ふたりの都合が合ったので、瑠音と僕は、お花見デートをすることにした。陽光に透ける桜の花びらたちは、瑠音の魅力を増幅しているようにも思われた。

　花見デートのゴール地点は、春の海辺だった。

　浜辺に座っているふたり──。
　ちょうど、そこはコンパース一家と別れた場所でもあった。

　ザブーン、ザザザシュー …

「そう言えば、あの成果、楽しみよね。あれから、私、どうなるか、ずっと楽しみにしていたわ」と瑠音。
「ありがとう。　──あれから、思いのほか考えがぐんぐん進んで、割と早くからも大事な成果が得られていたよ」と僕。
「それは、何？」
「人間社会レベルの３ステップスからズーム・アウトすると見える、さらに高次レベルの３ステップスさ」
「え？　──知りたい。知りたい♪」
「うん。順を追って説明するよ。
　まず、“人類という種を構成する人間”どうしが関わり合うことで人間社会レベルの３ステップスが成立するように、“動物や植物、細菌などの種を構成する個体”どうしが関わり合うことで個体社会レベルの３ステップスが成立する──」
「個体社会レベル──」
「そうさ。この個体社会レベルの３ステップスは、アリやハチなどの社会性昆虫とか、チンパンジーやゴリラなどの社会性の高い霊長類とかを構成する個体どうしの間だけで成立するとは限らないよ。
　少なくとも、有性生殖するならば、すなわち、“オスとメス”の関わり合いで繁殖するならば、少なくともこの時点で個体どうしが関わり合っているわけだから、これだけで個体社会レベルの３ステップスが成立していることになる。まあ、これは、わりとイメージしやすいと思うけど──」
「──」　桜の花びらのように、かすかに色づく彼女の頬──。
「って、別にイメージしなくてもよくて──」　あわててフォローし、話を続けた。 「たとえ、無性生殖の生物であっても、個体社会レベルの３ステップスが成立しているよ。なぜって、無性生殖の生物の場合も、ある個体が生殖し続けられるかどうかが、栄養分や日光などのエネルギーが限られているがゆえに、周囲に存在する同種の個体の存在に影響されることになるのだから」
「──つまり、少なくとも生殖していれば、有性か無性かに関係なく、あらゆる種において個体社会レベルの３ステップスが成立しているのね？」
「その通り。“少なくとも”だから、育児や経済活動を含む生殖以外の営みにおいても、個体社会レベルの３ステップスが成立していることがありうる。もちろん、この個体社会レベルの３ステップスの１例として、人間社会レベルの３ステップスも含まれているよ」
「──ええ、そうね」
「それで、いよいよ、この“人間社会レベルを含む個体社会レベルの３ステップス”からズーム・アウトすれば、さらに高次レベルの３ステップス、生態系レベルの３ステップスが見えてくるんだ」

「生態系レベル──」
「そう。
　──例えば、種Ａと種Ｂが支え合って成立している生態系レベルの３ステップスは、次のように示すことができるよ」

「この生態系レベルの３ステップスも、人間社会レベルの３ステップスと、よく似ているね」
「そうさ。フラクタル的に相似だからね。
　だから、生態系レベルのライフの成立──誕生や存続を決めるカギの１つは、やっぱり、『Love ‐ Loveの関係』の構築なんだよ。人間社会レベルのライフのときと同様に──」
「『Love ‐ Loveの関係』♪」