帰省を終えて、いつもの大学生活に戻った僕は、これまでの成果を、ある教授に話してみることに決めた。この教授の講義が一番好きだったし──　彼は、最も尊敬する教授の一人だった。
「おお！ すばらしい！
　──シンプル！　クリアー！　エレガント！
ミーニングフル！　ユースフル！　フルーツフル！
　──さぞ、興奮したでしょう。いいなあ。私も、一生に一度は、このような成果を生み出してみたかったですなあ。
　──ぜひ、一緒に喜ばせておくれ」と教授。
「──あ、ありがとうございます」と僕。
「もちろん、君の業績です。君の名前で、堂々と発表したまえよ。全面的にバックアップしようぞ。ふぁっふぁっふぁっ！」
「いえ、でも──　新しいことが何もないような」
「いえ。君は、コッホ曲線という具体的なフラクタル幾何、および、フラクタルの概念を通じて──　“さまざまな分野”と“身近な人生”の間にある共通点を見いだしながら、自然 natureに対する見方をバージョンアップさせています。
　つまり、誰もが漠然と思い描いていて、はっきりつかみきれていなかった自然観を、誰もが目で見て直観的に理解できる形、共有できる形に表現しています。
　これは、今まで、まだ誰もやったことのなかった画期的な業績ですぞ」
「──はあ。まあ──。でも──」　・・・　「間違えているかも」
「私を含め、誰もが、ときには間違えてしまう──　そのような存在です。なぜなら、誰もがみな、生身の人間ですから」
「──」
「間違いに気づきうるからこそ、本物なのですぞ。
　すこぶる健全な営み──」
「──」
「それに何より、この学問、いえ、あらゆる学問の土台となりうる nature 自然についての新たな知を愛する営み──新たな Natural Philosophy、新たな自然知愛 、および、新たな Principles of Natural Philosophy、新たな自然知愛原理は、単に間違えているにしては、あまりにも調和的すぎる」
「──知愛？」
「知識や知恵を含む知を愛すると書いて知愛──。これまで哲学と訳されることが多かったphilosophyの新しい訳です」
「──僕は、哲学、知愛を学んでいませんし、知愛をしているつもりも、全然ありませんでした」
「ふぁっふぁっふぁっ。知らず知らずに、ほとんど０からやっていたからこそ、まさに、本来のPhilosophy、知愛なのですぞ」
「──」　・・・