瑠音と僕は、その並木道沿いにある、木陰のベンチに座った。
　結局、その不安を彼女に打ち明けることにした。
「その発表──　やっぱり、何となくコワイんだよ」と僕。
「え？　どうして？」と瑠音。
「──。 だって、大勢の見ず知らずの方々の前で発表するのは、何となく不安で緊張するっていうか──　この成果が、かつて夢として想い描いていたような学問そのものではなく、学問の土台となる新たな知を愛する営み──新たなNatural Philosophy、新たな自然知愛とかに相当しているって言われて戸惑っているというか──　それに、何より、もし間違えていたらって思うと──」　・・・
「自信ない？」
「自信は──」　・・・　「──ある。いや、ない。いや、ある。いや、ない──　いや」
「フフッ。
──“間違えているにしては調和的すぎる”　そんなふうに教授に言っていただいたんでしょ？」
「──あ、でも、“私も生身の人間だから間違える”って、 応援してくださっていた教授自身が話していたんだぜ！？」
「──フフフッ」
　瑠音は、それから、しばらく葉っぱを眺めた。
　そして、ふいに口を開いた。
「間違えるって、そんなに悪いこと？」と彼女。
「え？」
「仮に、もし、どこかの間違いに気づいて“イヤだな、悪いな”と思う部分を見つけたのなら、“いいな、好きだな”と思えるまで、その部分を改善すればいい──　それだけの話じゃないかなあ。
　そうやって、バージョンアップを重ね続ければいいのよ」
「──」
「もちろん、間違えない努力も、とても重要なことよ。
　でも、それと同じくらい、いえ、それ以上に重要なことは──
“間違いに気づこうとする態度”と“気づいた間違いをどう活用するか”じゃないかしら？　その方が、結果的に、より真実に近づけるはずだし──」
「──」
「それに──　それは“生きる力”と一緒で、ほかならぬ第７フレームが教えてくれる、すてきな知恵の１つでしょ？」
「──うん。まあ──」
「責任を持って対応し続ければいいのよ。
　まさに愛し続ければいいの──。これまで通り、これからも。
　──きっと、成熟に向かっているライフにとっては、間違いは通過点にすぎないのよ。間違いをうまく活用できれば、それだけ、よりよく改善できるんですもの」
「──」
「それに──」
「それに？」
「──ううん。何でもない」　瑠音は視線を外しながら言った。