その日の1校時目には、英語の試験がひかえていた。
　その試験の結果は、英語の成績、ひいては大学進学に影響するという話だった。

　その日の朝、僕は少し余裕を持って家を出た。
　いつも通り腰を浮かせながらペダルをこぎ、例の長い上り坂を過ぎた。
　その後しばらく平坦な道を進んでいると、
　　──え？
　そこには、なぜか自転車を引き続けている彼女がいた。
　　──なぜ？

　僕は不思議に思いつつも、こちらから、いつものようにあいさつした。
　そして、いつものように、そのまま通り過ぎようとしたまさにそのときだ。
　彼女の自転車の後輪の“つぶれ”が目に入ったのは──。
僕は思わずブレーキを強く握って自転車を急停止させた。
　その場で振り返ると、何も考えずに声をかけた。「パンクしたんだ──」
「──。 ──ついてないね」　彼女の声ははっきり暗かったけれど、かすかにほほ笑んでいるようにも見えた。
「え？　でも、その調子じゃ、間に合わなくない？
　1校時目の英語の試験」と僕。
「──。 ええ、いいのよ。 ──しょうがないわ」
「って──」
「私は大丈夫。先に行って？　わざわざ止まってくれて、どうもありがとう」　彼女が健気にも無理して明るくそう言ったように思われた。
「──」　　彼女のために、僕は何ができるのだろう？
　頭の中を僕はフル回転させた。