「数学や理科が得意だから、きっと理系よね。 ──やっぱり、夏岬君は、その方面の大学とか、学部とかに進むんでしょ？」　彼女が明るく尋ねた。
「どうなんだか、まだよくわからないよ。そもそも、何のために大学に行くのか、はっきりした目標さえ、まだ見つかっていないし。早く見つけたいんだけどね」と僕。
「──見つかるといいね。うん、きっと見つかるわよ」
「ありがとう。
　──あれ、初果陽さんは、文系だよね。やっぱり、その方面の大学とか、学部とかに行くんだ？」
「行きたい。私、小学校の先生になりたいの。小学生の頃、とってもお世話になった大好きな先生がいてね、おかげでとても成長できたし、充実した楽しい小学生時代を過ごせたわ。それで、“私も先生のように子どもたちに喜びや楽しみを与えられたら、うれしいだろうな”って思うようになって──。
　──私の、あこがれね」
「へえー、いいなあ。はっきりした目標があって──」
　一瞬──　 “彼女がイキイキとした表情で小さな子どもたちに話しかけている姿”が、心に浮かんだ。「──うん。きっと叶うよ」
「ありがとう。
　──お互い、頑張ろうね」
「ああ、頑張ろう」

　それから僕たちは──　あいさつを交わし、それぞれの家路へ向けてペダルをこいだ。

　この恋が叶うかどうかなんてことは、すっかり頭から消えていた。その日の出来事、その日の会話を通じて──　目に見えないけれど、とてつもなく貴重なものをプレゼントされた気がした。