帰り道の分岐点にて──
「え？　義理のお兄さん？」と僕。
「そう。その日、ショッピングモールで、ばったり出会ったの──」と彼女。
「──ショッピングモール？」
「そう。その日、私、寝坊しちゃって朝食を食べそびれていて──　しかも、学校でも、なんだかんだで、お昼も食べそびれてしまって──。
　それで、放課後、あまりにお腹がぺこぺこだったから、このままじゃいけないと思って、ショッピングモールに寄って、たい焼きか何かを食べてから家に帰ろうと決めたの──」
「──」
「それで、モールに着いたあと、少しフラフラ気味で目的地へと歩いていたら、お義兄さんとばったり出会ったの。
　お義兄さんも、ちょうど遅い昼休みをとろうとしていたから、私にごちそうしてあげるって話になって──。最初断ったのよ。でも、ついついあまえてしまって──」
「ごちそう──」
「ごちそうって、ファミレスで──　はじめは慎ましく、おソバを注文して食べていただけよ。そしたら、私があまりに勢いよくおソバを食べたものだから、それを見て、きっと不憫に思ったのね。お義兄さんが、勝手にデザートも追加注文してくれて──」
「デザート？」
「そう。フルーツパフェ」
「──」　　・・・
「私と、お姉ちゃんやお兄義さんは10歳以上も年が離れていて、私が小さい頃、お義兄さんもまじえて家族みんなでファミレスに行ったことがあって──　そのときに私が喜んでフルーツパフェを食べていたのを、もしかしたら覚えていてくれたのかもしれないけど── 　・・・」
「──」
「私は、もう子どもじゃないんだし、もう食べられないってはっきり断ったのよ。
　でも──　・・・　店員さんが早々と作って持ってきちゃうし──　お義兄さんは、早々と会計を済ませて仕事に戻っちゃうし──　上にのったアイスクリームが溶け始めちゃうし──　・・・　それで、なんだかんだで──　ペロリと全部食べちゃった。アハハッ」　はじらいながらも満面の笑みが彼女の顔に浮かんだ。
「──」
「アレ？　私、なんの話をしていたんだっけ？
　──あっ、そうそう。それで、 そのときの様子を、クラスメートの誰かあるいは関係する誰かが見ていて勘違いしたんだと思う。だって、その翌日からクラスメートの態度が変わったんですもの。それ以外考えられないわ。ほかにやましいことしてないし。 ──変なウワサが流れていたことが原因だと知ったとき、私、腰が抜けるほどびっくりしただけでなく、その誤解が原因だとわかって、ほっとして涙が出ちゃった」
「──そうだったんだ」　・・・　よかった──　・・・　「うん。そのことをしっかり説明すれば、誤解が解けて、クラスメートのみんなもわかってくれるはずだよ」
「──ええ、そうしたい気もするわ。でも、それでも、やっぱり、いいのよ」
「え？　どうして？
　──このままじゃ、つらくない？」
「ちょっとね。 ──でも、もう大丈夫よ。 ・・・
　誤解されるようなことをしてしまった私にも悪いところがあったと思うし──　それに、クラスのみんな、それぞれ受験勉強とかでストレスたまって、自分のことで精一杯になっちゃっているのよ。 ──みんなも、きっとつらいのよ」
「そんな──」
「かりに、このウワサが否定されたとしても、今度はウワサを言い出した人の立場が、きっと、おかしくなっちゃうでしょ？」
「──」
「いいのよ。このままで。そうしたイヤな連鎖は、どこかで断ち切らないと──」
「──」
「それに──　ウワサを鵜呑みにせず、真実を知ろうとしてくれたあなたがいる。 ──ありがとうね」
「──。そんな──」　・・・　「──それより、礼を言うべきなのは、こっちの方だよ」
「──え？　どうして？」　彼女が聞き返した。
「だって──　プールの更衣室で倒れてしまったときのこと、急いで先生方に知らせてくれたのは君だったって聞いたよ。
　だから、どうもありがとう」
「ううん」　はにかむ彼女。 「それより、大丈夫だった？」
「ああ、おかげ様で──」
「よかった」
「──」　・・・　「──軽蔑した？」
「え？　軽蔑も何も──。
　 ──先生から話を聞いたよ。考えごとをしていて間違えて入っちゃったんだって──。
　先生も、許してあげてねって言っていたよ」
「──」
「──それに、冗談でも言っていたよ。
　かりに、男の子だから、好奇心から入ってしまったとしても、許してあげてねって」
「ぜぇったいわざとじゃないよ！！　絶対に！！」
「フフフッ。わかっているわ。大丈夫よ」
「──」
「男の子だから、好奇心から堂々と女子更衣室に入るなんて──　そんな割に合わないこと、わざとだったら誰にもできないわ」
「──」
　彼女のこの言葉が、すべてをわかってくれていることをはっきり示していると思った。