「アッハッハッ！　そうかそうか、うん、うん」とおじいさん。
「だから、笑いごとじゃないって」と僕。
「うん。 ──今おまえさんには、少なくとも2つの方向の選択肢がある」
「え？　どんな？」
「うん。1つは、このまま頑張り続ける方向。
　もう1つは、いったん休む方向じゃ」
「え？」
「1つは、まっすぐ帰宅して、すぐ勉強を再開する方向。
　もう1つは、ここで横になって、青空や雲を眺めながらゆっくりくつろいでリラックスする方向じゃ」
「──」　　・・・
「若者よ──　人生では、休みも大切じゃよ」
「でも、“今できることは今のうちにやった方がいい”っても言うし──」
「その通りじゃ。たとえ多少疲れていても、もし今できる場合は、今のうちにやる方がきっとよい結果にたどり着きやすいじゃろう。
　──しかし、もし今できない場合、例えば、今のおまえさんの状態の場合は、今やらない方がよいとは思わないじゃろうか？」
「──」　　・・・
「かりに、このまま休まずに無理して前進し続けたら、どうなると思う？」
「──いいんじゃない？　それだけ目標に近づけて」
「確かに、少しは近づけるかもしれん。
　じゃが、その“少し”と引き換えに、いずれ、頭や体、そして、心も壊れてしまいうるんじゃよ。
　──莫大な停滞が待っておる」
「──ん？」
「しかも、場合によっては、そのまま命を落としてしまいうる」
「──んん？」
「それは、どんなに好きなこと、やりがいのあることをやっていても同じじゃ。
　休まずに続けておれば、いずれ壊れる。そんなふうにできておる」
「──」
「それは、どんなに優れたスポーツ選手であろうと、どんなに優秀な学者であろうと同じじゃ」
「──」
「将来、長く続けていくために──　今、休むんじゃ」
「──」
「生きるために、休むんじゃ」
「──」　　・・・
「頭や体、心は、もし、どこかに過剰なストレスが加わり続ければ、壊れてしまう前に“もう無理だよ”とシグナルを発して知らせてくれる。
　ある意味、実によくできておる──」
「──」
「まあ、人生の経験を積んだわしのような場合は、そのシグナルが発せられるずっと前に、早め早めに余裕を持って休む。じゃから、ほとんど疲れ知らずじゃ。アッハッハッ！」
「──」　　・・・
「極端な話、“何もかもがイヤになるほどつらい感じ”が生じてしまった場合にも、少なくとも2つの方向の選択肢がある。
　1つは、“シンデしまった方がラクだろう。シンデしまいたい。どうやってシノウか？”という方向。
　もう1つは、“生きていくために、一時的に休んだ方がいいってことだ。休みたい。どうやって休もうか？”という方向。
　前者しかありえないと思い込んでいるなら、それは、つまらなすぎる悲劇じゃ」
「──」
「おまえさんは今、いい体験をしておるんじゃよ。なぜなら、この体験を通じて、そういった“人生の危機との付き合い方”という大切な知恵を身につけられるのじゃからのぉ」
　「──」　　・・・