「よーく見ておれよ。こうじゃ」　おじいさんは、紙の上で指を滑らせながら、左から右へとゆっくり移動させた。あたかも、そのスピードにも意味があるかのように──。
　そして、その末端にＶの字を回転させたものを付け加えたんだ。

「へ？　なんだこりゃ？　これでおしまい？」
「そうじゃのぉ。ほかには──」　今度は、ぐるりと円を描いたり、クルクルらせんを描いたり、波打つように描いたり、ジグザクに描いたりして、それぞれの末端に“回転V”を付け加えた。

　前に夢の中で見た空飛ぶコンパースの“メチャメチャな動き”を、ふと思い出した。
「おじいちゃん──、 ──なめんでない」
「なめておらん。大まじめじゃ。まあ、最初のまっすぐのやつは、ほんの一例に過ぎないんじゃ」
「それにしても、 ──いったい何だこりゃ？」
「3番目の“パラダイム・フォー・ライフ”じゃ。少なくとも、いろーんな“ライフのあり方”があることを教えてくれる」
「こんなの──　わかりっこないよ」
「そうか？　──それでは、わしゃあ、これから昼寝タイムといこう」
「あ？　さっき眠っていたじゃん」
「アッハッハッ！　さっき座ったまま眠っていたからこそ、これから気合いを入れて横になって昼寝するんじゃ」　おじいさんはそう言いながら本当に横になった。「──昼寝タイム、スタート。カーン♪」
「どうしてゴングが鳴るんだよ。それに、そもそも、なぜ昼寝なんて、 ──時間がもったいないよ」
「まあ、生きているから──　そう答えておこうかの」
　僕はこのとき、この3番目のパラダイムのすごさを、全然、想像できなかった。