おじいさんと僕は、腰を下ろした状態で、しばらく水平線を眺めていた。
「──よし、それでは、そろそろ教えよう」とおじいさん。
「え？　何を？」と僕。
「次のパラダイムをじゃ──」
「ああ、そうだったね」　そう言いながら僕はそのまま固まってしまった。
「 ──うん？　では、地図をよこしておくれ」
「──って、やっぱり必要だよね」
「──どうしたんじゃ？」
「──。 誤って海の中に──」
「あ！？」　おじいさんは、急いで立ち上がり、海面をのぞき込んだ。
　地図が、どこにも見あたらないことを悟ったおじいさんは、しばらくの間、呆然と立ちつくしていた。
「──。 ──。 おまえさん──　そいつを取り戻そうとして、海に飛び込んだってわけか──」
「──」　僕は、小さくうなずいた。
「そうだったのか──。
　──うん、うん。そうか、そうか。 わしゃあ、少し力が湧いてきたぞ」
「──」
「──さっき怒鳴って、 損したぞ。アッハッハッ！」
　おじいさんは、やはり誤解していたようで──

「そうとわかれば──」　おじいさんは、明るくそう言いながらゆっくりしゃがみ込むと、そのまま横になった。
「──ん？」と僕。
「ひとまず昼寝じゃ」
「え？　──地図は大丈夫？」
「──。 若者よ──」
「ん？」
「パラダイム・マスターをなめるなよ」
「いや、別に、なめちゃいないけど」　あわてて否定しながらも──　ランプベリーがおじいさんの頭をペロペロなめているシーンが、心に浮かんだ。
「まあ、なんとかなるじゃろう。
　それより、おまえさんも、たまには昼寝してみたらどうじゃ？　──昼寝にも、それなりに意味がある。少しは見習え」
「──。 ──こっちは昼寝しなくていいよ。遠慮しとくよ」
　それから眠るなんて、そのとき、とうてい考えられなかった。
「そうか──。じゃ、お先に」　 目を閉じるおじいさん。
　「──」　　・・・

　でも──
　僕も、とりあえず横になってみることにした。


　でっかな青空が広がっている──
　白い雲が、ゆるやかに流れているのが見える──
　さわやかな潮風が、全身をなでていく──

　　ここで横になると、こんな感じになるんだ──。
　　けっこう気持ちいいかも──。

　おじいさんは、幸せそうな表情をしながら眠っていた。

　　あれを、なくしちまって──　本当に大丈夫だろうか？
　　それなのに昼寝だとは──
　　・・・
　　ったく──　・・・
　　ああ、なんだか──
　　まぶたが──　だんだん重たくなってきたぜ──
　　ああ──　あれぇ──　・・・

　体は、そうとう眠たがっていたらしい。
　僕は──　不覚にも、そのままぐっすりと眠り込んだ。