釣りのウキのように、おじいさんの顔が見え隠れしていた。
「若者よぉ〜！　──気持ちいいぞぉ〜！　──よっ」
「それより、大丈夫かあ〜！？　無理しないでくれよ〜！」
「よゆうじゃ。よゆう！　──ほっ　快適じゃあ！　──はっ」
　決して、きれいな泳ぎとは言えなかったが、それなりに泳ぎを楽しんでいるように見えたんだ。

「やはり、泳ぎは、一度、体で覚えてしまうと忘れんもんじゃの？　アッハッハッ！」　海から戻ってきたおじいさんは、そう言って笑った──　「ゲホッゲホッ。ゲホホッ」　あとにむせた。
「大丈夫？」
「ああ、大丈夫、大丈夫。 ──。 じゃが、終盤へばっちまってよ──　もうちょっとで、おぼれてしまいそうになるところだったわい。アッハッハッ！　ゴホッ」
「──」　　！！！　　僕の顔が一気に引きつった。
「わしゃあ、これでも──　若い頃から、泳ぎの名手だったんじゃよ」　おじいさんは、そう言いながら腰を下ろした。
「年、考えてくれよ。年。それは若かりし過去の話だろ？」　そう言いながら僕も腰を下ろした。「体力は、めっきり落ちているんだから。 ──それに退院したばっかりじゃん」
「グホッ。3本くらいとられたわい。アッハッハッ！」
「──」　　・・・
　ふと見ると、おじいさんの胸ポケットの中に、濡れた、あの地図があったんだ。