それから、誕生日が迫っていた、ペコペコ度Max状態の瑠音に、特製バースデーパンケーキを提供するために、フルスピードで台所で格闘した。
「あっちぃ！！」　急いで指を水道水で冷やした。
「──大丈夫？」　ベッドからの彼女の声。
「大丈夫、大丈夫。余裕さ。アハッ。 ──決して見に来ないんよ。そのまま休んでいるんよ。できあがったら、すぐ知らせるから」
「ええ、わかったわ。 ──なんだか『鶴の恩返し』みたい」

　そして──
「ジャーン！　堂々の完成！♪」　そう言いながら、できたての“アイスクリーム・オン・フルーツ・ヨーグルト・オン・パンケーキ・フォー瑠音”を、彼女が待っているテーブルまで運んだ。
「うわー、おいしそう♪」　マスク越しの、笑みあふれる瑠音の顔。
「だろだろ？」
　いちご、ブルーベリー、みかん、りんご、バナナ、アイスクリーム、ヨーグルト、牛乳、卵、ホットケーキの素──あらかじめバイト先のスーパーで買って準備しておいた材料を主に使って、彼女のアパートにあった材料も適度に交えながら、作ったケーキだった。

　彼女はテーブルの上のケーキをまじまじと見つめ続けた。
　なぜか食べようとしない彼女を見て、僕は思わず尋ねた。
「どうしたんだい？」
「困った〜。どうしよう〜」
「何か、苦手な食材が入っていたとか？」
「ううん、そうじゃなくて、ケーキを食べたいのは山々なのよ。でも、ケーキを食べるためにはマスクを外さなければならくて、それだと、あなたにカゼがうつるかもしれない。ああ、困った──」
　僕は、思わず一瞬心笑んだ。「大丈夫。大丈夫。何も話さず黙々と食べればいいんだよ。こっちはマスクを着け続けているし」
「そう？」と言いながら、小さく首をかしげる瑠音。
「そう」と言いながら、大きくうなずく僕。
「それでは──　お言葉に甘えて──　いただきます」
　瑠音は、おずおずと、マスクを外すと──　フォークを使い、黙々とケーキを食べ始めた。　モグモグモグ …
　しばらくすると、彼女は、急いでマスクを着けてから口を開いた。
「──おいしーい！　とっても、おいしいよ！　 ──シアワセ♡♪」
「よかった♪ “スペシャル・デラックス・アイス・オン・フルーツ・イン・ヨーグルト・オン・パンケーキ・フォー・瑠音”と呼んでくれたまえ♪　アッハッハッ！」