いよいよ、生まれて初めての研究発表の当日──。

　その日は、ちょうど、彼女にとっての大切な試験の日と重なってしまっていたので、瑠音は発表会場に来られなかった。

　瑠音と僕は、お互いの成功を祈り、お互いに“手作りのお守り”を交換し合っていた。
　それでも、演台の上に立った僕は、えらく緊張していた。

　おそらく教授が宣伝してくれたからか、会場は多くの人たちであふれ返っていた。
　それでもシーンと静まり返っている会場──
　注がれる多くの視線──　バクバクと高鳴る鼓動──
　僕は、ポケットの中の──　彼女のお守りを握り、それから、おじいさんの丸い石のお守り“アインシュタイン”を握った。

　そのときだ。 ある人影の、例のしぐさが目に入ったのは──
　！！！
　観客席の中の、そのしぐさの正体に僕は歓喜した。

　なんと、おじいさんが、片方の手を左右に大きく振りながら、もう片方の手の親指を上に立てて前後に動かしながら、頭を少し横に傾けながら、こちらに向けて、心笑みかけているではないか！

　ああ、元気だったんだぁ。そして、来てくれたんだぁ。
　──ありがとう。ありがとう。
　涙が、にじみかけた。

“ゆっくり、ゆったり深呼吸”を繰り返した僕は──　気持ちが落ち着いた状態で口を開いた。
　心笑みながら──。
「──この発表を、地元の偉大なおじいさんへ捧げます」

　会場が少しざわめいた。

　おじいさんは両腕いっぱいに大きな円を空中に描き始めた。
「──もちろん、この会場にいらしてくださった皆様方へも」

　うなずきながらジェスチャーを繰り返し続けるおじいさん。
　──え？

「あ、それから──　それから──　できれば、これからも力を合わせながら、ずっと一緒にライフをエンジョイしたい愛しい人へも捧げます」
　さらに、うなずきながらジェスチャーを繰り返すおじいさん。

「それから、それから──
　親友や──
　愛犬や──
　育み支えくれた家族たち──
　優しく励ましてくれた親戚たち──
　お世話いただいた先生方──
　多くの時間をともに過ごしたクラスの仲間たちへも──

　ここにおられない、すべての方々たちへも──

　さまざまな知恵や勇気を与えてくださった、本の著者の方々へも──
　さまざまな感動や楽しみを与えてくださった、あらゆる作品の誕生を支えてくだった方々へも──
　…

　懸命に、今を生きている方々へも──

　ここまで僕らを育んでくださった、過去を生きた方々へも──

　限りない可能性があふれる、未来を生きる方々へも──

　出身地も、世代も、時代も、年代も、性別も、学校も、職業も…あらゆる肩書きの壁を乗り越えて──
　すべてのライフへ──

　敬意と感謝を込めて──」