「──教えて、教えて！　まずは、過去のことを。 君が知っている過去のこと」
「えーと、だれの過去を話せばよろしいでございましょうか〜？♪」
「え？　じゃあ、やっぱり、岬の、あのおじいちゃんに関する過去については？　今は、それを話せる？」
「はい、話せるでございますとも〜♪
　昨年の初夏に、お会いした過去の思い出──
　それから、小さい頃、親に聞いておりました過去の記憶──
　それらの両方ともを話せるでございますぅ〜♪」
「──え？　小さい頃、どんなふうに親から聞いていたんだい？」
「はい。彼は、わたくしたちの世界で先祖代々語り継がれてきた伝説のスーパースター〜♪　永遠のビッグヒーロー〜♪
　パラダイム・マスターの中のパラダイム・マスターなのでございますぅ〜♪」
「パラダイム・マスター？」
「そうでございますとも〜♪
　パラダイム・マスター──　それは、パラダイム・フォー・ライフの意味を、よーく知っておられる方でございますぅ〜♪
　昨年の初夏、初めてお会いしたときは、非常に感動したでございますぅ〜♪　お話もしてくださりましたでございますよぉ〜♪」
「──」

　不思議な気分だった。
　　あのおじいちゃんが──
　　昼寝ばかりしているような、あのおじいちゃんが──
　　実は、すごい人だった？

「おじいちゃんは、ずっと前から、あの辺りに住んでいるのかい？」
　僕は、深く考えもせずに尋ねた。
「そうでございますとも〜♪　これまでの多くの年月は、今と同じ家で、愛する妻と一緒に暮らしていらっしゃったのでございますぅ〜♪」
「“暮らしていらっしゃった”って──　え？　今、奥さんは？」
「数年前に、お亡くなりになられてしまったのでございますぅ〜♪」
「ええ！？」

　ショックだった。
　　あの陽気なおじいちゃんが、奥さんと数年前に死別していた
　なんて──。　・・・

「え？　子どもや孫たちは？」　希望を見出すべく、質問を再開した。
「赤ちゃんは、授かったのでございますぅ〜♪　赤ちゃんは、授からなかったのでございますぅ〜♪」
「え？　どっち？」
「お二人とも、赤ちゃんをとてもお望みになりました。妊娠するという形では、何度か授かったのでございますぅ〜♪　抱っこできる赤ちゃんとしては、授かることができなかったのでございますぅ〜♪」
「──」　 ・・・


　ショックだった。
　　どんなにか、つらかっただろう？　どんなにか、せつな
　かっただろう？　どんなにか・・・
　　あのおじいちゃんが──
　　あんなに陽気なおじいちゃんが──
　　これほど深い心の傷を負っていたなんて──。


「彼は、子どもたちや若者たち…　み〜んながみんな、めんこくてたまらないようでございますぅ〜♪」
「──」
「彼は、子どもたちや若者たちと出会ったり、道ですれちがったりするたびに、人知れず、“幸せに生きるんじゃぞ”と心の中でつぶやいておられるのでございますぅ〜♪　昨年、岬であなた様と出会われたときも、例外でありませんでしたのでございますぅ〜♪　このことに我々が気づいておりますことを、彼自身は全くご存じないのでございますぅ〜♪」
「おじいちゃん──」　おじいさんを見る目が大きく変わったのを感じながら、そうつぶやいた。