しかし、コンパースは、そのままスーッと素通りした。
「わあ！　 ストップ！　 ストップ！」
　コンパースは、何の反応も返さず、海の上空を進み続けた。
「きっと、宝だ！　タ、カ、ラ！　あそこに、でっかな宝箱があったぞ！」
　それでも、コンパースは、そのままグングン進み続け──　だんだん海面スレスレまで近づいてきた。
　かと思うと、次は、グイーンと急上昇を始めた。
「うわああああ・・・！
　──どうしたんだぁ！？　大丈夫かぁ！？」
　コンパースは、全くお構いなしだった。それからしばらくの間、ジグザグしたり、クルクル回転したり──　コンパースは、上下左右にメチャクチャな方向転換を繰り返した。
　僕は、コンパースにしがみついているのがやっとで──　両手と両腕がジワジワと疲れてきた。
「まずい──　力が入んなくなってきたよ」
　そのとき何やら聞こえてきたんだ。
　よく耳をすますと──
「… ルモウネ、ルモウネ、ルモウネ …」。
「──だから、寝なくていいっていうの！　こら、寝るなぁ！　寝るな！　寝るな！　…」
「… モウネル、モウネル …」
　しばらくすると、コンパースは、推進力と浮揚力の両方を完全に失い、僕もろとも海へと真っ逆さまに落下し始めた。
「うわああああああああああ・・・・・・！！」



　──ゴトッ。
　ベッドから床へ、ずり落ちて目覚めた。

　しばし呆然──。

　手と腕の疲れは、全く感じなかった。
　　ああ、夢でよかった──。　　心底、そう思った。
　僕は、床にひざまずいたまま、すっかり明るくなっている窓の外をしばらくボーっと眺めた。
　ふと見ると、地図も床の上に落ちていることに気づいた。
　　・・・　 ──あれ？
　　どこまでが現実？　どこからが夢？